2010-08-11
香港の先例から考えて「貧富格差をさらに広げる」ECFAは不要
馬政権の独断と横暴がさらにエスカレートする中、民主進歩党はECFAに対して立法院で実質審議を行うことと、国民投票に諮ることを要求している。11日からはさらにテレビおよびネットを通じて四十秒のスポット広告を流し、ECFAが台湾を「一つの中国市場」への束縛を進め、「金持ちがますます金持ちになり、貧しいものはますます貧しくなる」という悪影響を生むことを訴えている。
蔡其昌スポークスパーソンは「馬政権は大企業のためだけに黄金の十年をもたらす一方で一般のサラリーマン、労働者、農民、漁民の暮らしを一切省みようとしていない。これが民進党がECFAに反対する最大の理由である。
立法院法制局が先月出版したECFA関連報告によると、香港が中国とCEPA締結後、世界で最も貧富格差が広がった地域であり、ECFAも同様の災難を生む可能性があると指摘している。香港は域内生産額は 2,000億米ドルだが、最も豊かな10%が34.8%の富を占め、最も貧しい10%はわずか2%しか占めておらず、両者の格差は世界最大の17.8倍に達しているという。(報告はhttp://dpppolicy.blogspot.com/参照)
台湾が中国とECFAを締結するのは、他の多くの国とのFTAと異なり、意味や効果は中国と香港の間のCEPAに近いことは、立法院法制局が香港の例をECFAの教訓として選んだ最大の原因である。そこで今回の四十秒のスポット広告では、香港にロケを行い、香港人にインタビューして貧富格差が拡大し、生活が悲惨になっていることを語ってもらった。撮影では一度、香港「籠民」にもアクセスしようとしたが、住民に追い払われた。
このスポット広告で、政府と国民には、香港がCEPA締結後に、中国と香港の資金と人的往来を簡素化したために、物価が高騰した一方で、労働者の実質賃金は反落したことに目を向けてもらいたいと思う。現在香港では大学卒業生の失業問題が厳しさを増しており、中高年の浮浪者化も進んでいる。
民進党は経済成長に反対しているのではない。しかし馬政権がECFAについてでたらめな宣伝をして金持ちの機会が増えることばかりふそぶいて、一般庶民の被害には一言も触れようとしない点を批判しているのである。いずれにしても世界の経験からいって、自由貿易協定は一般的に産業への衝撃、国民の失業上昇、弱者への悪影響などがみられるものである。馬政権と国民党はそうした自由貿易がもたらす貧富格差拡大の問題に厳粛に対処しようとしていないことが問題なのである。
民進党は馬政権がもっと対策や準備を行うことを願って、諫言を行っているのである。それは民進党は台湾が周縁化したり、貧富の格差が拡大したりして社会対立が激化することにならないよう願っているからである。
国連開発計画(UNDP)の2009年度報告によると、世界の先進経済体の中で、香港の貧富格差は1位となっている。香港が中国に復帰してから、月あたり就業収入が5,000香港ドル以下の者は1997年の307,350人から2006年の528,150人と、71.8%増加となっている。しかも香港で月収9999香港ドル以下の家庭は、2001年から2006年の間に3.8%増加している。これはCEPA締結後に中・低収入家庭が増えたことを示している。
立法院法制局が「CEPA締結後の香港・マカオ社会(就業)の変遷」報告概要によると、
一、香港がCEPAを締結した後、就業・労働は構造的変化を示している。(一)就業人口が増加し、労働人口参加率が構造的問題を生み出している、たとえば女性労働人口参加率が上昇し、男性のそれが下落し、中高年労働人口参加率が下がっている。(二)構造的失業問題だが、技能の需要が増加し、非技能的労働者の失業率が増加、技能的労働者と非技能的労働者との賃金の格差が増加している。(三)就業収入の不足(ワーキングプア)人口の増加により収入格差が拡大し、両極化している。(四)労働人口の流動性とグローバル化による国際的労働力の移動が増大していることは技能技術をもった労働者には有利になっている。(五)不名誉な労働が増加している。
二、景気が回復したといわれる香港では、「3K労働」従事者の貧困化が激しくなっている。(一)2006 年ワーキングプアの人数は418,600人(1996年は22万人)、香港労働人口全体の13.1%にのぼる。(二)低収入労働者の現状は:(1)女性低収入労働者の経済状況は改善していない;(2)中年低収入労働者の比率が特に40代、50代で上昇している。(三)低収入労働に従事する高学歴層が増えている;サービス業、小売店員、ヒラ社員などが低収入の多くを占める、その割合は、2007年第3四半期に72%。
三、香港で「3K労働」に従事している層の疎外、周辺化が進んでいる。(一)長時間労働の増加で労災や職業病の機会が増加。(二)体力労働が労働者自身の健康を破壊。(三)低技能労働者の就業機会が不足し、賃金交渉力も低下している。(四)労働時間の延長:疎外された労働者のうち18万人が毎週50時間以上の超過勤務、さらに少なくない人が70―80時間超過勤務。(六)賃金低下:大部分が4,500香港ドル以下、そのうち7万人が3,000香港ドル未満。(七)劣悪な労働条件:労働環境の衛生水準が低い。(八)ポスト不安定:短期契約だけ可能、すぐに解雇されるうえ何の保障もない。(九)法定休暇や休息日を取得できないケース、たとえば7日ずっと休日が取得できない。
四、最近の国連統計によれば、香港は先進的経済発展地域のなかで貧富格差が最も激しい地域となっている。香港の域内総生産は2,000億米ドル(15,600億香港ドル)だが、最貧の1割は全収入の2%しか占めておらず、最富裕の1割は全収入の34.8%を占め、その格差は17.8倍に達している。
五、CEPA締結後の香港経済は疎外化、周辺化が進んでいる。中国の対外的な結びつきは香港に依存しておらず、中国の対外窓口として発展してきた香港の役割は弱体化しているのが現実だ。例えば2007年第1四半期には、上海港の集荷貨物量は588万TEU(20フィートコンテナ)と、香港港のそれをはじめて超えた。香港は徐々に周辺化されつつある。
六、製造業とサービス業が「空洞化」しつつある。多くの香港資本が、特に製造業の資本が中国本土に進出し、2000億米ドルあまりの香港資本が香港から本土に移動した。その半数が珠江デルタ地帯,に5﹒3万の工場を開き、1,000万人の労働力を雇用している。香港は1970年代以降の経済構造転換により全面的に第三次産業にシフトし、サービス業の割合は現在9割に達しており、製造業と工業のそれは3%となっている。
七、生産と消費が乖離し、経済困難に直面している。香港と中国本土では不動産価格やその他の商品やサービス価格には大きな違いがあるため、香港の消費が本土に向かう現象が強まっている。そして香港人の多くは香港で働いても、不動産や消費は深圳でというものが増えている。
八、香港と中国本土各地の相互依存度が高まっている。